SCENE13 勤務表は管理能力を映す鏡 役割と責任を与えるのがコツ

 勤務表の作成は師長の数ある業務の中でも、最も負担に感じるものの一つであろう。勤務表を基に繰り広げられる人間模様は、管理者とスタッフとの駆け引きもある一方で、病棟の看護体制の維持のために厳しい決断をしなければならないこともある。子どもの授業参観や突然休みといった頭の痛い課題も多い。さて、そんな毎月やってくる勤務表作成に、看護管理者は、えこひいきしていると思われないよう、かつ、スタッフの休みの希望に応えるように神経をすり減らさなければならない。負担の多い勤務表であるが、勤務表を見れば組織の管理能力がわかってしまうのである。勤務表を通して、組織の管理レベルについて考えたい。

 師長会で鈴本師長が、勤務表は看護部が一括で作れないかと提案した。鈴本師長の病棟は、勤務変更と突然休みが多く、管理に限界があるようだ。師長会で意見が上がった以上、議論せざる得ない状況になった。

斎藤:これで師長会を終わりにしますが、皆さんから何かありますか?

鈴本:勤務表を作るのが、負担なので看護部の勤務表を一括で作るということにできないれでしょうか?

斎藤:外来や各病棟によって事情が違うので、やはり別々の方がいいと思うけど、なぜ?

鈴本:スタッフの突然休みも多いし、希望日も調整がつかないので、私がつぶれそうです。スタッフの代わりに私が勤務することもあります。先月なんて、7日勤が2回もあり、休みも6日しか取れませんでした。もう限界です。

―鈴本が突然泣き出す。

斎藤:鈴本さん、泣かないで聞いてください。勤務表作成はとても重要です。基本なんだけど、なぜ希望日が調整つかなかったり、突然休みが多くなってるのか考えたことある?

鈴本:誰だって、土日は休みたいし、風邪引けば休むんじゃないですか?

斎藤:本当にそう思うの?希望日ってコントロールできるし、突然休みってある程度コントロールできるの知ってる?

鈴本:そうなんですか?

斎藤:鈴本さんの病棟の希望日って、何日あるの?

鈴本:特に決めていません。

根田:えっ...。

斎藤:鈴本さん、これから私は経営会議があるから、鈴本師長に教えてあげてね。

根田:分かりました。

―斎藤部長が経営会議のために退席し、師長会が終わった。勤務表の作り方で気になっている師長は会議室に残った。

根田:鈴本師長、希望日の日数を決めないといけないわよ。私の病棟は、1人3日で優先順位を決めているのよ。どうしても休みたい日とそうでない日に決めているの。奈須さんは?

奈須:うちの病棟も3日です。

鈴本:根田師長と同じようにしたいと思いますが、希望日3日で反発ないですか?

根田:私の病棟はないわ。でも、これまで希望日無制限だった病棟に、いきなり希望日3日というと反発があるかもしれないわね。ところで、希望日が重なっていた時はどうやって調整したの?

鈴本:私が適当に振り分けています。ただし、どうしてもって言ってくる人には、優先的にしています。

根田:いつも同じ人の希望が通るようになっていなかった?

鈴本:そんなこともあったかもしれません。

根田:不公平になったりすると新しく来た子が絶対に不利になるから気をつけた方がいいわよ。

鈴本:わかりました。気をつけます。

―根田師長の話で、鈴本師長は落ち着きを取り戻した。奈須は病棟に戻り、病棟の管理と突然休みや勤務変更に関係があるのではないかと考え始めた。その時、ちょうど石崎と廊下ですれ違い、勤務表について質問をした。

奈須:石崎くん、事務って突然休みとか勤務変更ってどうやって減らしているの?

石崎:そんなこと、ほとんどないよ。

奈須:なんで?

石崎:気合いだよ。

奈須:えっ?

石崎:冗談だよ。でも、突然休みや勤務変更は、気持ちの持ちようが大きいことは確かだね。突然休みや勤務変更がゼロっていうことはないけど、多いのは、管理者の管理責任だと思う。

奈須:違いはあるの?

石崎:違いは、職場の雰囲気かな、計画的に仕事を実行していこうとする職場の雰囲気と職場自体が隙があり、いつ休んで大丈夫な雰囲気があるところは、突然休みが多い気がすると思わない?

奈須:そうね。

石崎:奈須も自分が休もうとする基準って日によって違うんじゃない。

奈須:それってどういうこと?

石崎:師長になってからではなく、スタッフの時を思い出してもらいたいんだけど。例えば、今日は日勤スタッフが多いから休んでも大丈夫かなと思うと、熱があまり高くなくても休もうかなと思わなかった?逆に、今日は人がいないと思うと迷惑がかかってしまうから休めないと思って、熱が高くて出勤してしまうことってあったでしょ。

奈須:確かにそうね。

石崎:そこを利用するんだ。

奈須:どういこと?

石崎:きちんとした役割と責任を与えるってことだよね。事務では、日々の配置が決まっているから1人が休むと仕事が回らなくなってしまっている。だから、相当なことがないと休もうと思うわないんだ。

奈須:子供がいるスタッフは?

石崎:子供がいるスタッフについては、授業参観や運動会などはある程度、スケジュールが決まっているからなるべく、そのスケジュールどおりに休ませてあげることを心がけると、感謝してくれて一生懸命に仕事をしてくれるよ。子どもが熱を出した時も、医療機関を受診してから来てくれることもあるしね。

奈須:そう考えるとコントロール可能な気がするね。パートさんは、どうするといいのかな。

石崎:パートさんについては、勤務変更が簡単だという意識からパートになっている人もいるので、コントロールが難しいね。でも、仕事を任せ、責任を持たせることで、パートさんでも仕事に対する見方が変わってくるよ。どこでもそうなんだけど、パートさんに仕事を任せないし、責任を持たせないから、パートさんも責任感がなくなってしまうこともあるね。これは、お互いさまじゃないかな。

 離職の多い病棟と突然休みや勤務変更の多い病棟は相関があると思います。これは、管理者の情熱と管理能力の欠如から来るものでもあると考えられます。そんな病棟では、残業が多く、組織のまとまりもありません。そんな病棟に対しては、情熱を持ってスタッフと対峙することと、任せるという管理を行うことも必要ではないでしょうか。突然休みは、どこの病院でも課題であることは間違いありません。スタッフを疑う前に、自分の管理が正しいかチェックをしてみてください。